「景汰居るか!?」
藤村と接触した翌日、俺は教室に入るなり大声で叫んだ。
教室に居る生徒達は大声に驚いたらしく、静止してポカンと口を開けて俺を見つめている。
「瑞傍、高嶋ならまだ部活から戻ってないよ」
「あ…そっか」
「それと、いきなり大声で入って来んな。マジでビビった」
「ごめん。でもつっつんだって教室に飛び込んで来る日多いじゃん」
若干テンパってた俺の対応をしたのは、クラスメイトの津田篤。
通称・つっつん。
学級委員長の癖に、よく遅刻する。
「あれは遅刻寸前だからだ。そのくらいの必死さは認めろ」
「はいはいそうですか」
俺は自分の机に移動し、コートを脱いだ。
カバンの中に入っていた教科書を引き出しの中にしまい、カバンをロッカーに突っ込む。
そう云えば、来週から学年末テストだ・・・
「そんなに血相変えてどうかしたの?」
「んー、景汰に訊きたい事があって」
「もう暫くしたら戻って来るだろ。瑞傍も同じサッカー部だったんだから判るでしょ」
「そう・・・だな」
俺が言葉を濁したのには、訳があった。
つっつんは何かを悟ったのか、一瞬慌てる。
「ご、ごめん。無神経な事云ったな」
「別に。つっつんは悪くないよ」
俺だって、景汰の全てを知ってる訳じゃない。
確かに俺と景汰はクラスメイトだし、同じサッカー部員だったし、何より生まれた時から一緒の幼馴染だ。
幼稚園・小学校・中学校・高校と、クラスも全部一緒。
幼稚園の頃から一緒に始めたサッカーも、二人でずっと頑張ってきた。
中学・高校と、サッカー部に入部してから、ずっと二人で2トップを組んできた。
・・・俺が辞めた今、あいつが誰と組んでるのかは知らないけど。
「おはよー」
教室のドアの方から、呑気な声が聞こえた。
聞き慣れた、景汰の声だ。
「おはよ。何か瑞傍が急用みたいだよ」
「おぉ、つっつん。今日は早いな」
「俺だって遅刻ばっかりしてられませんからね」
「悠希、俺に何か急ぎの用事でもあった?」
「ん、まぁ・・・」
景汰と顔を合わせた時、俺は急に冷静になった。
つっつんと景汰は、不思議そうに顔を見合わせる。
「何だよ、さっきまで血相変えて高嶋の事探してた癖に」
「そうなんだけど・・・」
「気になるから云えって!」
「んー後で云う・・・」
馬鹿か俺は。
教室のど真ん中で女の話なんてしてみろ。
別に何も関係無い『藤村縁』の事を訊いたら、誤解にされるに決まってる。
・・・と、俺は冷静に考えた。
「あ、そう。じゃあ後でな」
景汰は案外簡単に折れて、自分の机に向かった。
つっつんだけは腑に落ちなかったらしく、首を傾げていた。
でも、俺にも腑に落ちない事が一つあって。
俺と景汰は生まれた時からずっと一緒で、学校もクラスも部活も全部一緒だったのに、どうして俺は藤村の事を知らないんだろう。
* * * * *
「・・・で、話って?」
昼休みになり、俺と景汰は食堂に向かった。
一瞬藤村に逢いそうな気がしたけど、多分あいつは屋上だろう。
何と無く、そんな気がした。
「んー・・・」
「まだ渋ってんのか?」
食堂は思ったよりも人が少なく、それなりに話を切り出し易い雰囲気だった。
後は、俺が話を切り出せば・・・
「――実は」
「実は?」
俺はBランチのオムライスを突っつきながら、意を決して話し出した。
「藤村縁の事なんだけど」
景汰は購買で買った特大あんぱんを頬張りながら、目だけで驚いていた。
俺はミニトマトを食べながら、次の言葉を待つ。
「・・・あいつに、逢ったのか?」
「あぁ、昨日・・・」
「何処で?」
「学校の屋上で」
「はぁ?何であいつが此処に居るんだよ・・・」
景汰はパンを食べるのを止め、何故か俯いてしまった。
・・・何か地雷踏んだのか?
「だって、この学校の生徒じゃないのか?」
「・・・此処に居るって事は、この学校の生徒なんじゃねぇの?」
「なんだそれ」
噛み合わない会話に、不信感を覚える。
景汰は残っていた特大あんぱんを口に放り込み、スポーツドリンクを一口飲んでから、勢い良く立ち上がった。
「・・・」
「景汰?」
「・・・悪い、俺用事あるから先に行くわ」
「ちょっと待てよ、まだ話・・・」
「ごめん、俺も混乱してんだ」
意味深な一言を残し、景汰は食堂を出て行った。
追い掛けようにも足が出ず、俺は取り残される形になってしまった。
――正直な処、俺は景汰に藤村の事を訊いて、その後どうするつもりだったんだろう。
何か勢い余って訊いてはみたけど、その後の事を考えてなかった・・・
でも、何で景汰があんなに狼狽えたんだ?
全っ然判んねぇ・・・
「後味の悪い会話の終わり方・・・」
独り言は、虚しく宙を舞う。
景汰と喧嘩なんて、幾度となくしてきたのに。
今回は喧嘩した訳でもないのに、どうしても腑に落ちなくて。
そんな独り言に気付く筈も無く、周りの生徒は食事を終え、早々と教室に戻って行く。
俺も遅れまいと、Bランチに専念する事にした。
・・・サッカーコートからも見えるんだろうか。
あの、妙に目立つ赤いマフラーと、静かに佇む彼女の姿。
それに、あの真っ白な紙飛行機が。
「これ以上、景汰には訊けないんだろうな・・・」
誰よりも長い間一緒に居たから、嫌でも判ってしまう。
あいつは、絶対に隠し事をしてる。
それも、俺に話せないような、重大な事を。
景汰は頑固だから、どれだけ問い詰めても答えやしないだろう。
もう一度。
藤村に逢うしか打開策は無さそうだ。
【続】